託した人
大前 直行さん
Profile
学生の頃から3代目を意識して東京農業大学醸造科に進学。商品開発に必要な知識や技術を習得する。商品開発したゆずポン酢は、今もなお人気を誇るロングセラー。現在も現役で現場に立つ。
代が変わるごとに進化を遂げる、老舗醤油蔵が目指すもの
託した人
大前 直行さん
Profile
学生の頃から3代目を意識して東京農業大学醸造科に進学。商品開発に必要な知識や技術を習得する。商品開発したゆずポン酢は、今もなお人気を誇るロングセラー。現在も現役で現場に立つ。
受け継いだ人
大前 浩介さん
Profile
城北高校から大東文化大学法学部政治学科に進学。卒業後はアルバイトをしながら、音楽でプロの道を目指す。2003年に帰郷し2018年に3代目に就任。新商品開発でヒットを飛ばす。
2018年4代目の浩介さんが受け継いだ大前醤油本店は、曽祖父の代から続く創業100年を超える老舗。丁寧な醤油づくりで地域の食卓を支えてきました。創業時から昭和にかけては大家族が主流で、一家族が一度に1.8l入りのボトルを10本オーダーする時代。個人宅にお伺いを立てて配達するのが一般的で、ダイハツのオート三輪にまたがり地域を忙しく駆け巡っていました。しかし、昭和60年代を境に、核家族化、食事の欧米化などの影響から醤油の需要が減少。当時、3代目として会社を任されていた直行さんは、醤油に加えて時代のニーズに合った新しい商品が必要だと考えるようになりました。直行さんは大学での学びを活かして、出汁醤油やポン酢、ドレッシングなど醤油をベー スにした新しい商品の開発を始めます。試作を幾度も繰り返しながら、頭の中のアイデアを具現化。昭和40年に徳島の柚子を使った柚子ポン酢が誕生したのを皮切りに、様々な新商品を世に送り出してきました。新商品の評判も上々で売り上げを伸ばす中、要の醤油は停滞の一途をたどっていました。
昭和の時代に活躍したダイハツのオート三輪。 顧客宅を1軒、1軒回って配達していました。 新しい取り組みに挑戦している今も、配達は続いています
その頃、息子の浩介さんは東京の大学を卒業後、就職もせずにプロを目指して音楽に明け暮れる毎日。そんな孫を見かねた祖父が、地元に戻るように毎日電話をかけていたと言います。「当時は本気で家 業を継ぐ気はなく、いつか戻ればいいという軽い気持ちでした。偶然その電話を隣で聞いていた彼女、今の妻の「帰ろう」の一言で、仕方なく戻ったのを覚えています」と浩介さん。渋々戻った浩介さんの仕事は、自社の商品を理解し、お客様を知ることからスタート。県北を中心に約3,000件を周り、醤油を直接届けました。「当時は熱意もなく、とにかく仕事時間が長く感じて早く帰りたかった(笑)」と振り返ります。日々同じルーティーンを繰り返す中で、浩介さんにも醤油業界の厳しさが伝わってきました。「同じことをしていては 将来的に厳しいだろう」と感じながらも、心境に何も変化がないま 2018年に事業承継することになります。
「深刻になりすぎてもいけない」と思いながらも、浩介さんの危機感は募るばかり。いい方法が思いつかずにいた2021年、大前醤油はコロナ禍で100周年を迎えることになりました。その時、浩介さんは「100年続けてこられたのは地域の方々のおかげだ」と初めて実感。状況を俯瞰で見ることができた瞬間、同時に仕事への熱意がこみ上げてきました。「地域への恩返しは、〝雇用〟を生み出すことだと思いました。そのために体制を整え、売り上げを伸ばす必要がありましたが、得意先に直接醤油を届ける今のビジネスモデル では無理だと感じました」と話します。これまでのBtoCからBtoBへの販路を開拓すべく、頼りにしたのは商工会。サポートを受けながら問屋の開拓や展示会参加など、積極的な活動を続けました。また、これまで二ーズがないと考えていたミニボトルでの販売にもチャレンジ。これが時代のニーズにぴたりとはまり、大ヒットとなります。「経営者が本気になっていないのに、誰もサポートしようと思いませんよね。自分がしっかりと前を向いて歩 き出した時、初めて必要な繋がりが見えてきまし た」と浩介さんは話します。
核家族化やお土産需要など現代ニーズにぴったりとマッチした100mlのミニボトル。美味しいうちに使い切れると評判です。 商品名は直行さんのアイデア
販路拡大のほか、先代の代には 着手することがなかったOEMにも挑戦。自社商品、他社商品にとらわれず、依頼があればがむしゃらに試作を繰り返して商品化を目指しました。こうして誕生したのが安芸太田町の特産品「祇園坊」という柿を使ったドレッシングやソース、川根ゆずを使った柚子ポン酢、三次ワイナリーの焼肉のタレなど。こうした商品の開発には、父・直 行さんの技術が存分に活かされていたのです。また、大量の在庫を抱えずに済むように最少ロットでオーダーできるように配慮。実績を重ね、様々なお店、企業から問合せが続いています。「スキルを求めず、一生懸命仕事をしていただける方をたくさん雇用して、一緒に楽しいことにチャレンジしていきたい。そのためにも会社の規模を大きくして、地域のお役に立ちたいです」と話す浩介さんの目にもう迷いはありませんでした。
大正10年創業。 創業100年を超える老舗の醤油蔵。創業当初から水を大切にした醤油づくりにこだわり、現 在も大土山から流れ出るミネラル豊富な天然水を使用する。製造する醤油の特徴は西日本特有の甘さに加え、うま味も重視。独自の配合で調味料と組み合わせ オリジナルの醤油を作り上げている。